過去の遺品

算術師です。



自分を晒し者にするようで非常に躊躇いを禁じえません。



18の時に書いた小説の一部を公開しておきます。

まぁ、内容としては現代社会ベースのファンタジー世界観(現代社会に異種族とか色々並存して暮らしてるもの)でした。



内容的には世界観紹介の為に用意した小話で、「異世界のコンビニって、多分こんな感じです」といった所ですか。



単独で読めるように物語の脈絡から外すよう改変してあります。



文章的にはこんな感じの取り組みをしていました。



・1人称語りの徹底(3人称的な説明語句を可能な限り排除)

・句点は1文1個まで

・会話の自然さ(都合の良い台詞回しの排除)

・登場人物の会話の書き分け(不自然な喋り癖の排除)

・語句の書き分けの徹底



他にも色々考えながらやった気がしますが、大体こんな感じでした。

…徹底できてるか結構怪しいですが。



さて、前書きはこの辺にして本文入ります。








「ああああっ! 解ける訳ねえだろ、こんなもん!」

 俺はこっそり絶叫していた。目の前には化学の問題が三問。因みに最後の1問が白紙。後ろには白衣の化学教師。毎週火曜日放課後恒例の『出来た者から帰って良し』形式の補習は、始まりから30分が過ぎて残り人数も少なくなって来た。現在7人。この講座に集まってる人数の大体八割はもういない。

「そんな叫ぶなって。見苦しいぞ。」

 隣の席で同じく問題相手に苦戦中の悪友・飯田 武彦が偉そうに言う。ったく、オマエが言うな。先刻まで延々絶叫しまくってたのはオマエだろうが。

「…何見てんだ?」

 気付けば飯田の野郎が俺の解答を覗こうとしている。すかさず牽制入れて追い払う。油断も隙もあったもんじゃない。

「イイじゃないか。減る訳でもないし。な、あと1問なんだよ。」

「駄目だ。俺が損するだけだろうが。」

 …相変わらずしつこい奴だ。まあ、コイツがしつこいのは今日に始まった訳じゃないんだけど。コレ以上相手してると時間切れになりかねない。時間切れしたら特別補習+化学実験室の掃除の豪華二本立てセットが待っている。

 噂によると、犠牲者は後日三日は寝込むとか夢の中に元素記号が出てきてそれにうなされる羽目になるとか…とにかくそれはそれは恐ろしい代物だ。

 でもって恐怖の特別メニュー回避のために残された時間はあと十分。どう考えても飯田に構っている暇は無い。問題に集中しないと…。

 ……。………。

 駄目だ。全っ然分んねー。何だよ、コレ。

 最終問は化学変化の途中式を埋めろ、って問題なんだけど…どうやったらこの原料からそんな物が出来るんだ、と思わず言いたくなるような代物だ。

「なあ、祐二。」

「うるさい!」

 ったく、邪魔しやがって。俺を道連れにする気か。

「少しぐらい聴けよ。」

 コイツ、どうせ放っといたらいつまでもしつこいんだろうな。…仕方無い。聴いてやるか。

「で、何だ?」

「祐二、オマエ何問目が出来てないんだ?」

 この期に及んでそれか。まだ覗きたいってのか?

「三問目。最後の奴。」

 ココで話を切ると余計に長そうなので、しぶしぶ答える。

「そうか。オレは最初の方のが出来てない。」

「で?」

 相変わらず物言いが回りくどい奴だ。で、結局何が言いたいんだ? 意味も無く俺の邪魔をする気なら、どうなるか分ってるだろうな? そんなニュアンスを込めて睨む。

「交換しないか? 出来てない所を埋め合えば何とか時間に間に合うだろ。」

 …その手があったか。流石だ、親友。

「解った。じゃ飯田、お前から見せてくれ。」

「交渉成立、って事だな。手早く写してくれよ。」

 そう言って回答を寄越してくる。奴の言った通り、一問目だけが白紙で後は完全に埋まっている。

写した事がばれない様に気を使いながら、しかもなるべく急いで写す。幸い監視は厳しくないし、教え合いなんかやってる奴等もいるから写してるのがばれない様にってのは気にしなくて済んだ。

 …二分後。

「終ったぞ。ほれ。」

 何とか写し終った俺は、飯田にプリントを渡す。飯田は、渡されると直ぐに俺のプリントを見ながら俺と同じく解答をでっち上げる。しばらくするとプリントを返してきた。終ったらしい。

「さてと、こっちも終ったしとっとと帰らないか?」

「そうだな。」

 と言う訳で筆箱その他を鞄の中に仕舞って帰り支度を済ませて教室を出る。

「遅かったな。一応訊いとくけど、忘れ物は無いよな?」

 教室出てすぐの所で待っていた飯田はそんな事を言う。お前じゃあるまいし、そんな物有る訳…

「あ。」

 …そう言えば、ロッカーの中に忘れてたな。面倒な物を。

「何だ。結局、忘れ物してんじゃないか。取って来いよ。俺も部室に取りに行くものあるし、それが済んだら正門前集合、それでいいか?」

 有無も言わさず飯田は勝手に決定している。ま、別に良いんだが。因みにコイツが言う『部室』ってのは新聞部の事だ。コレでも一応副部長らしい。

「ああ。じゃ、そう言う事で。」

 特に不満が有る訳でもないので了承して、ロッカーへと歩き出す。しっかし、あれだけ存在感の有る物を忘れるとは…俺も呆けたな。ま、今日持って帰れば三日は使わねーから家に置いとけばいいだろ。流石にあんなヤバイ物をロッカーに置いとくと何が起こるか解ったもんじゃない。

 それは別として、急がないとな。飯田は待たせると煩いし、バイクも取りに行かなきゃならないからな。

 そう言う訳で俺は歩くペースを上げた。



 …五分後、正門前。

 急ぎ過ぎたか…。飯田はまだ来ていない。正門から見て、部室棟は補習のあった共通科目棟よりも更に奥まった場所だから仕方無いと言えばそれまでと言えばそうなんだが。

 いい加減立ってるのも面倒になってきたので、壁際に停めておいた自転車に寄り掛る。でもって更に待つ。特にする事も無いから仕方なしに下校して行く奴等をボーッと眺めてみたりする。

 はー。ったくいつまで待たせる気だ? 時間掛け過ぎだろ、どう考えても。

 そんな感じで更に十五分経過。俺がいい加減人間観察にも飽きてきた頃、ようやく飯田が現れた。

「何だ、早かったな。」

「お前、一体何を取りに行ってたんだ? いくら何でも、時間かかり過ぎじゃないか?」

「物自体は直ぐに確保できたんだが、後輩の記事の駄目出しする羽目になって遅くなった。悪かったな。…取りに行った物ってのはコレだ。」

 そう言って飯田は鞄から紙束を引っ張り出す。言ってみれば雑に作った本って所だろう。って、ソレだけ見せられても…。だから何なんだ、ソレは。ま、一応訊いてみるか。

「いや、だから何だソレ。」

「説明してなかったな。新聞部謹製の校内特異人物リスト・今年度版(仮)だ。種族別・学部別その他諸々のランキングもついてるスグレモノだ。」

 オイオイ、そんな物騒な物作んなよ。しかも今年度版って…。去年もやってたって事か?

「で? 何か面白いトコでもあるか?」

 物騒呼ばわりはしたものの、ヤッパリ気になる。ま、人間そんなもんだよな。

「そうだな。オマエもバッチリ載ってるぞ。」

「は?」

 オイオイ。どう言う事だよ、ソレ。

「因みにオマエはレベル4だ。おめでとう!」

 そう言うと飯田は何処から持ってきたのかクラッカー手に取り、鳴らす。周りに居た連中が一様にこっちを向き、一瞬硬直してから何も見なかった事にして去って行く。俺も当事者じゃなきゃな…なんてことを思わず遠い目をしながら考えてしまう。

 いや、今はそんな事を考えるな、俺。そして…現実を直視しよう。飯田は俺がこうしてボーッとしているのは祝い方が足りないからだと勝手に解釈して、駄目押し気味に拍手を始めた。

 …だから勝手に祝福すんなって。思い切り被ってしまった紙テープを払い除けながら、とりあえず抗議する。

「何がどうめでたいんだよ。しかもレベル4って何の事だ。」

「いや、目出度いぞ。何しろ最高峰だからな。ああ、因みにレベル何とかってのは新聞部策定の能力判定基準でレベル1から4まで在るんだが、それが何か? ついでに言っとくと基準が気になるならリストの簡易版を三日後から購買で売るから、その時に買ってくれ。一部二百円。安いもんだろ?」

 拍手の手を止め、どうでも良さげに飯田は言う。

 何か脱力。と言うよりそんな物まで商売に使うなよ。しかも簡易版って何だよ。

「…そんな妙な物、売って儲かるのか?」

「それなりに儲かるぞ。まあ、文化祭で完全版を売るから簡易版は大した売上にはならないけどな。」

 ドコまでもお気楽に、ついでに楽しげに飯田は言う。

 放っとくといつまでも喋り続けかねんな。

「……。」

 仕方が無いので『興味ありません』と目で訴えてみる。しばらく楽しげに飯田は喋っていたが、察したらしくおとなしくなった。

「……。ま、オマエも興味無さそうだしこの件は終いだ。そうそう、オレは帰りにコンビニに寄っておきたいんだが、オマエどうする? 因みに歩きだが。」

「ああ。じゃ、そうするか。」

「それじゃ決定。さ、ホレ行くぞ。」

「ちょっと待てよ。」

 そう言うと飯田は身勝手にもスタスタ行ってしまう。…だから待てって言ってるだろうが。



 二分後。

 そう歩くこともなく学校から一番近いコンビニに到着。飯田は早くも何やら物色中だ。

「何探してんだ?」

「幽霊用使い捨てカメラ。あ、正確にはレンズ付きフィルムか。」

 有るのかそんなマニアックな物。いや、実在するのは知ってんだが流石にコンビニには無いだろ。

 幽体系の亜人(一番有名で人口?も多いのが幽霊だ)は普通どう頑張ってもマトモに写真に写らない。五人で集合写真を撮ったら、写ってたのは三人ってことも…。そんな訳で幽霊が写真にマトモに写ろうとするとソレ専用のフィルムが必要なわけだ。

 ただ、どう考えても需要人口(?)がかなり小さいので、普通のコンビニで売ってなかったはずだ。いや、まずそんなモノを置こうって考えるような粋狂なコンビニがあるのか?

「お、あったあった。コンビニも捨てたもんじゃないな。後は…。」

 オイ、嘘だろ?

 …や、やるなコンビニ。今回は俺の負けだ。

 物色が続きそうな飯田は放っといて、俺は雑誌を立ち読みしてからその辺の物を適当に見て回ることにした。

 と言う訳でコンビニぐるり一人旅、マズは文具コーナーから。シャーペンやレポート用紙に混じって魔術用の羊皮紙が混じってる辺り学生を意識してる…のか? 相変わらず飯田が気合入れて物色中だ。

 次、ドリンク類。品揃えは…と言うと、ジュースがやたらに種類豊富で酒類のバリエーションが異様に少ない。ま、学校近辺ってそんな物だよな。

 ま、それは良いとして、何故か食用の血液が瓶入り・缶入り・パック入りと各種取り揃えてある。しかもヤギ、ヒト、牛(以下略)と種類もヤケに豊富だ。どう考えても異常な気が…。イヤ、ハッキリ言って異常だ。その隣には聖水が置いてある。ヤッパリと言うか、何と言うか血液と隣接してる所だけ売れ残ってるボトルの数が倍だ。血液の方も似たり寄ったりな状況な所を見ると、どうも配置を間違えてるんじゃないか? と思う。

 その次、弁当類。おにぎりのラベルに蜘蛛やら蜥蜴やらの佃煮が入ってるとデカデカと書いてあるのはどうかと思うんだが…。こんな物食べる奴…そう言や魔族連中は結構美味そうに食うよな。どう考えても俺には美味い物だと思えないんだが…。

 あと目立つ物…と言うと、海藻だけがただひたすら盛ってるだけの『海藻サラダ』なんてのもあるな。ドレッシング無しってのが有る意味とても潔いと言うか、漢(おとこ)らしい逸品かもしれない。まあ、食べるのは魚人連中だろうな、多分。

 あとは…食用石板か。定番通りラベルに産地、材質、成分とか書いてあるのは良いとして…。『賞味期限:本日より二万四千年』…いや、ソレってホントに書く必要有ると思ってるのか? ある意味このコンビニ一番の謎かもしれないな。

 そんなこんなで色々見てると、飯田が物色を済ませたらしくビニール袋片手に声を掛けてきた。

「こっちの買い物は済んだ。祐二、オマエは?」

「買うものは無かったから、もういい。」

「じゃ、帰るか。」

「そうだな。」

 と言う訳で店から出る。いつもの通りそのまま店の前に停めて置いた自転車に乗ろうとした所で、ふと気付く。飯田は徒歩だ。

「俺はこのまま自転車で帰るつもりだけど、どうする? 途中まで乗ってくか?」

「いや、遠慮しとく。このまま飛んで帰った方が早いしな。」

 しれっと飯田は言う。飛んで帰る? オマエ、…正気か?

「ちょっとコレ持っててくれ。」

 そう言って肩掛けの鞄を寄越す。? どう言うつもりか解らないが、一応受け取る。

「あと、コレも持っててくれ。」

 といって何故か上着も脱いで寄越す。…一体何をする気だ?

 飯田が上着の下に着ていたシャツの背中の部分は大きく穴が開いている。有翼種の亜人用の物だ。飯田、遂に妄想と現実の区別がつかなくなったか?

 オマエはドコをどう見たって人間種だろ?

 そんなモノ着たって、オマエが空を飛べる訳ない事ぐらい解ってるだろ? な?

 ソレとも頭の中身がどっか別のところに飛んでったか?

「そう言えば、言ってなかったか? オレ、天使だったりするんだが。」

 しれっとそう言ってる間に一対の白い翼を展開。でもって、ゆっくりと羽ばたいて10㎝ほど浮いて見せる。ゆっくりと。

 どう見てもその羽ばたきで浮ける訳が無い勢いで、だ。

 …恐ろしく非現実的な光景。余りに非現実的過ぎて頭が回らなくなってるらしく、気付けば妙に冷静な質問をしていた。

「なあ、思うんだがその羽根は飾りか? 無くても浮けるだろ、じつは。」

「殴るときに叫ぶのと同じだ。あった方がやり易い。無いと結構辛いしな。」

 そう言えば学校でもそんな事を習ったような気がするんだが…。と、そこまで考えてふと驚愕の事実に気付く。

 コイツ、どうやら本当に天使らしい。

 …正直、こいつが天使なら俺大天使くらいに人徳あるぞ?

 てかこの性悪なイキモノが天使?

 オイ、何の間違いだ?

「なあ、そろそろ荷物返してくれるか? いい加減、帰りたいし…。」

「ああ。」

 飯田の一言で、またも呆然としてた所をいきなり現実に引き戻される。とりあえず、言われるままに預かってた物を返す。

「それじゃオレはこのまま帰るから。ココでサヨナラってことで。」

 それだけ言うと、飯田は大きく羽ばたいて夕日の空に消えて行った。